開発会社と依頼者の間には...

「男と女の間には、深くて暗い河がある」という歌いだしの「黒の舟唄」という歌があります。
二者が向かい合う人間関係は、男と女だけでなく、様々な、切り口や局面がありますが、システムの開発を依頼する側、開発を依頼される側という関係でも同じようなことを感じることがあります。

当たり前のように、システムに対する要望事項を確認して、見積もりをして、合意の上で開発を始めて、完成、納品すれば両方がハッピー、となれば簡単なのですが、必ずしもそういうケースばかりではありません。

これは、あまた聞く同業者や依頼者の話、Web 上の嘆きやクレームからも分かることですし、うちの会社も例外でなく、システムの開発を依頼する側、開発を依頼される側が常にハッピーということは現実的には難しいように思います。

目に見えないシステムというゴールを目指して、説明を尽くそうとする開発会社、理解しようと努力する依頼者。多くの場合は、この努力によって、両者の間のギャップを埋めることは可能ですが、どう説明を尽くしても、どう理解しようと努めても、埋まらない「深くて暗い河がある」場合があります。

システム開発に限らず、デザインやアート、コンサルティング等、完成の形が一意ではないゴールに対して、共通の理解を作ること自体が難しいのです。

たまに、開発会社の HP で「弊社は○○なので0クレーム(今までクレームを受けたことがない)」というアピールをしているのを見かけますが、それは、相手のレベルを問わず完全な相互理解を実現する完全無欠なコミュニケーション力を持っているか、あるいは、相手の持っている不満にすら気づかないか、受注件数が0なのか(笑)、だと思います。それか、偽りの宣伝文句です。

開発会社のコミュニケーション力不足、きちんとした確認手続きの欠如なども原因のひとつです。実際、きちんとしたヒアリング、仕様書の作成、それに基づいた見積書の作成ができる会社はそれほど多くありません。仕様書もなく、件名に「○○システム開発」、明細は「システム開発一式いくら」だけでは、好んでトラブルを呼び寄せているようなものです。

一方で、多くの依頼者は、「IT ならこんなことは簡単でしょ?」、「開発会社は自分の考えを推し量って作ってくれる(一を聞いて十を知る)のが当然」、「自分が分からないことは(自分から何もしなくても)開発会社が理解させるのが当然」と考えていることも多いのが現実です。

根底にあるのは「お客様は神様」という日本的な商習慣という意見もありますが、それで問題があるのであれば、その問題への対策を取らないのでは意味がないのではないでしょうか。医者や弁護士は、依頼者からは「先生」や「パートナー」などであっても、間違っても「外注先」ではないはずです。開発会社も、依頼者の業務フローの改善、システムの改善を提案して、それを実現する手助けをしようと思うのであれば、「もみ手で営業」では駄目でしょう。

値段でしか見れない依頼者と「ご無理ごもっとも」な開発会社が多ければ、システム開発という難しいプロジェクトで死屍累々になることは、火を見るより明らかです。

問い合わせや引き合いの件数を減らしたくない多くの開発会社は、面倒なことはできるだけ避けて、「何でもお気軽にお問い合わせください」。余計なことを言って仕事が減るかもしれないリスクよりは、仕事を取った後のリスクを選択しているとも言えるかもしれません。

また、多くの依頼者は自分の考えていることを理解していません(笑)。同じ処理に対して担当者ごとに意見が違ったり、ある仕様と別の仕様が矛盾していたり、話すたびに方向性が変わったり、などなど。ですから、実際に細かい要件を詰めることは相当のエネルギーが必要で、時間もかかるのです。面倒くさいから、テキトーに希望を言えば、見積もりを出してくれる会社同士を値段だけで比較するのが楽なのです。そして...

結果、どちらもハッピーになりません。


普段感じている問題意識を半端に書いてしまいましたが、このテーマは、とても一回のエントリーで書ききれるものではないので、また機会を改めて書きつづりたいと思います。